ブンブン文楽 ☆ らんらん落語

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馬琴ゆかりの地で復曲の狼煙(のろし)

【2016年9月22日/素浄瑠璃の会@東京・江東区森下文化センター】

復曲浄瑠璃『花魁莟八総 伴作住家の段』

(はなのあにつぼみのやつふさ ばんさくすみかのだん)

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今日も今日とて雨風吹きすさぶ中、長靴武装で素浄瑠璃を聴きに行ってきました~。

所は、時代劇でも有名なお江戸の下町、深川(現・江戸川区)。

当地出身の大作家・曲亭馬琴の『南総里見八犬伝』は皆さまご存知だと思いますが、その文楽版『花魁莟八総』を知っている方は、まだ少数派ではないでしょうか?

 

なぜなら、大正11年以来、94年間も上演が途絶えていたからです!

 

国立文楽劇場の復曲プロジェクトにより、その浄瑠璃の一部が蘇り、今年3月の文楽劇場での試演会を経て、この日ようやく東京でもお披露目と相成りました。

 

因縁か? ミッションか?

 

『花魁莟八総』を手掛けたのは、『生写朝顔話』(しょううつしあさがおばなし) の作者・山田案山子。

原作とは多少構成が異なり、中心人物である城主・里見義実は序章で毒殺されてしまいます。

(メジャー俳優の役がオープニングで殺されてしまう、映画『スクリーム』のようなサプライズ☆)。

そうすることで、物語の焦点は 里見家の再興 へとスイッチ。

八犬士を導く因縁とは、実はお家再興のミッション! という趣向になり、彼らが背負う “ 宿命 ” がより鮮明に。

さらに、ドラマ性とカタルシスを高めるための逸話も随所に散りばめられています。

  

今回の『伴作住家の段』は、八犬士の重要キャラクター・犬塚信乃が主人公。

病的な臆病(!)という設定が、新たに加えられています。

前半は、許嫁の美少女・浜路のくどき。後半は、父親との壮絶な別れと八犬士としての覚醒の物語。

作品テイストが極甘⇒激辛と変化し、主人公の状況の落差が際立ちます。


また、死をもって息子の病を治す父親の温情が、信乃を生まれ変わらせて報恩へと駆り立てる 絶対的 な動機づけとなり、八徳の玉の【考】(親・先祖を敬う) の意味を強めます。

かなりグロテスクなシーンもありますが、そこに秘められた尊い親子愛に思わず涙させられる、良くできた一段です。

 

東京初演にあたり、馬琴と地縁のある文楽界の二賢士・竹本千歳太夫(江東区出身)と野澤錦糸師匠(本会の発起人。定宿先も江東区)が揃い踏み。

この巡り合わせは、果たして偶然か?因縁か?はたまた復曲のミッションか?

 

必要なのは、 経験則+洞察・推理力+根気
 

ここまでの話で “ 復曲 ” とは何ぞや?と思われた方もいらっしゃるかもしれません。

簡単に言うと、上演が途絶えた浄瑠璃を現存する床本をベースに復刻すること。

今回の場合は、次のような手順になっているそうです。

  

まず、文楽劇場の企画制作課で本作の掘り起こしを担当している神田竜浩さん(東京上演時の解説もご担当)が、大阪市立図書館に残る『花魁莟八総』の床本を隈なくあたり、書き込みのある使えそうな物を探し出して、錦糸師匠に託します。

 

それらを写した錦糸師匠は、浄瑠璃の原則を踏まえつつも、太夫が語りやすいことを念頭に全体を調整し、地道に完成形を作り上げていくそうです。

その詳しい手順は、まるで難しい推理小説クロスワードパズルを解くような・・・。

ゼロから生み出す作曲とは対照的に、復曲には長年の経験則や名探偵級の頭脳と根気が要ることが分かりました。

 

先人の手法を探り出したりするのが面白い反面、行程的に床本を3度書く必要があり、還暦近い身の上には目がおぼつかなくて大変だと、ボヤいていた錦糸師匠。

八犬伝』執筆中に失明し、息子の嫁に口述筆記してもらって大作を完成させた馬琴になぞらえ、「わしも女房に書いてもらって・・・」と冗談めかして笑っておられました。

でもそれって、大変だけどライフワークにしよっかなぁ♪ ってこと、ですよね?(笑)

 

頭の中で人形が動き出す

 

さて、ほとんどの来場者にとって未知の浄瑠璃、果たして理解はできたのでしょうか?

上演後の客席の反応や、質疑応答の様子からすると、概ね問題なかったようです。

 

その勝因は、

①上演前の作品解説で、文楽劇場の神田さんが あらすじや聴きどころを明解に教えて下さったこと。

②錦糸師匠の復曲の妙。太夫が語りやすく、観客にも聴きやすい工夫が凝らされていたこと。

③千歳太夫の声柄に合っていて、なおかつ豊かな表情が起伏に富んだドラマを理解する上での助力になったこと。

そして②と③が相まって、「自然と人形が演じている情景が浮かんだ」という声も多々ありました。

 

浄瑠璃の一段を聴いただけでも、本公演への期待がグンと高まった『花魁莟八総』。

なんと1世紀近く前の道具帳(美術・セット等の記録簿)や、八犬士の生みの親・伏姫のケレンに使った頭(早変わりの仕掛けがあり、『玉藻前曦袂』の玉藻前から九尾の狐に変身する頭の “ 犬版 ” )も残っているそうです。

 

もともと “ 八犬伝もの ” は庶民の人気が高く、人形浄瑠璃でも数編作られました。

が、近代演劇の確立を目指した坪内逍遙の批判に世論もなびき、社会的評価が凋落。

上演時間の長い通し公演が激減した時代背景と相まって、ついに廃れてしまったのは誠に残念な事です。


願わくば、東京五輪に・・・

 

残る復曲の進み具合が気になるところですが、今回の『万作住家の段』の前段、『行女塚(たびめづか) の段』は完成済み。続く『芳流閣の決闘』部分も作業続行中のようです。

『芳流閣』といえば、大屋根の上での立ち回りと落下が有名で、活劇の醍醐味に溢れた一幕。文楽の総力が試される 難所であり見所 となるに違いありません。

文楽劇場では、このあたりまでを半通し公演として計画中だとか。


本公演実現化の話になった時、満場一致の拍手が沸き、制作の神田さんはじめ錦糸師匠、千歳太夫も笑顔で応えていました。

 

 とはいえ、全ての準備が整うまでは、まだまだ遠い道のり。

国立文楽劇場開場35周年を迎える2019年に大阪初演、2020年のオリンピックイヤーに東京公演が果たせれば、タイミング的に大成功なのですが・・・。

お忙しい 文楽界全ての賢士たち のご健闘とご健勝を祈願しながら、ファンは気長に待つと致しましょう。

 

【 参考 】

滝澤馬琴 誕生の地モニュメント(江東区HP)

https://www.city.koto.lg.jp/seikatsu/community/22/83.html

 

2016年3月16日 国立文楽劇場での試演会の模様 (日本芸術文化振興会

http://www.ntj.jac.go.jp/topics/bunraku/27/10810.html

 

『花魁莟八総』床本デジタル資料(国立国会図書館

http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/903359

注)上記の表紙およびデータ記述は『里見八犬伝』、著者は  山田案山子 校訂 となっています