文楽の未来と愛人問題
【文楽若手会 2018年6月28日(木)・29(金)/ 文楽既成者研修発表会@東京】
演目:『万才 (まんざい)』『絵本太功記(えほんたいこうき) 夕顔棚の段(ゆうがおだなのだん) / 尼ヶ崎の段(あまがさきのだん)』『傾城恋飛脚(けいせいこいびきゃく) 新口村の段(にのくちむらのだん)』
梅雨の合間、夏日がジリジリと照りつける昼12時。
必死のパッチで仕事を上げた私は、まさにヒジ・ヒザ直角大回転で会社を飛び出した。
タイムリミットまで、あと55分。
本妻は大阪、東京は愛人?
(顔にモザイク。BGM:映画「ムーラン・ルージュ」より「Lady Marmalade」)
東京ちゃん 「いつもだと『 若手会 』って、6月の3週目の土日に大阪姐さんのとこ、4週目の土日がこっちって感じだったんですよね。でも、去年は5月の『 六代目呂太夫 襲名披露公演 』の初日が遅かったからズレちゃったみたいで。お祝い事だし、私も大人だし、そこはスルーしてあげたっていうか。結局こっちはド平日でしたけど満員御礼にはなって。そしたら、また今年もって言うんですよ。んもぉ、甘えん坊さん(笑)」。
(回想)
文楽くん 「今年も襲名披露あるやんかぁ。ボクんとこのカミさん、大阪やろ?(大阪姐さん振り向き、ニッコリ)土日は向こうおらんと・・・な? 優しい東京ちゃんやったら、ド平日でも、また、来てくれはるやろ?(モミッ♪ )」
(暗転 チョン!柝(き)の音で暗転明け、浪曲師登場。背景は荒波と千鳥)
三味線 チャチャチャ、チャチャチャチャ、チャンチャチャチャッチャッ、チャ~ン♪
浪曲師 「しょせん、とぉ~きょ(東京)は、セカンド・ラヴァ! 惚れたぁ私が馬鹿ぁなのよぉ~」。
曲師(合いの手)「はぁ~~いぃっ!」
浪曲師 「馬鹿ぁ~んは死なぁなぁ~きゃ、なおぉ~おっおぉ~ら~なぁ~いぃ~~!」
(ワーワー喝采を浴びる浪曲師。 チョンチョン・・・・柝の音と共に定式幕閉まる)
「 満員なら問題ない 」が文楽を蝕む
開演8分前、私は滝汗ビッチョリで国立小劇場に到着した。
白地に赤々と書かれた 《 満員御礼 》 の看板を横目に劇場へ入ると、悠々リタイア世代で大賑わい。
「 そりゃそうだ 」 と汗をぬぐい、扇子片手にチケット争奪戦で確保した本日のお席へと向かった。
終演後、ぶっちゃけ「 午後休してきたのに、ヤなもん見たなぁ 」とガッカリ。
舞台の上は、メッチャがんばってはった。問題は、観客の方にあった。
もう、慣れて諦めてもいるけれど、本公演で目にする勉強熱心な熟年のお客さん方 ―― 浄瑠璃は、まず床本や字幕ありきで、太夫の語りそっちのけで読みふけっている人々。時々先走って爆笑してたりしてるのって、本末転倒じゃね?と思う。あと、見せ場・聴かせ所がコケても、お約束場面と知ってるから拍手する人。コケたらニヤニヤしときゃいいのにねぇ。やってる当人は赤っ恥ですわ。そんでもって一番タチ悪いのが、素人の私が見ても「アカン・・」と思うような芝居にも、自己アピールのために「大~当たりぃー!」を絶叫して、帰りしなの会場をシーンとさせる人 ――そんな、悪気はないけど困った先輩方が、この日盛大にやらかしていたのだった。
たぶん実際にご身内の方もいらっしゃてたとは思うけれど、それを上回る量で、「 応援してるよ! 」という姿勢を見せたい人々が、盛大な拍手を送っていた。舞台に誰か登場するたび、役の大小関係なく、一人一人公平に。キメ場とあらば、さらなる拍手。芸の上手・下手を問わず。その様子はまるで、
幼稚園の “ おゆうぎ会 ” だった 。
『 芸人を育てるのはお客様 』と、舞台関係者は半分リップサービスで言いますよ、確かに。だからといって、客が贔屓の若手を“ 孫扱い ”していい所以はないと思いますが?
ゆとり教育の結果が示すように、過保護で過剰なホメ育ては、使えない人材を生むだけ。「 東京だとウケるのになぁ 」 カン違い芸人が出来上がった頃、甘く育てたジジババは、無責任にも墓の中だ。
“ Stay hungry, Stay foolish ”
文楽の若手達よ、実力をためて、率直に応援し合える自分ら世代のファンや仲間を、東京でも増やそうぜ!
先代の呂太夫師匠や清治師匠達が「原宿文楽」(@ラフォーレ原宿)に挑んだように。
紋寿師匠と文吾師匠が宇崎竜童氏と組んで反響を呼んだ「ROCK曾根崎心中」のように。
そして、国立劇場は未来への投資として、文楽の裾野を広げる戦略的なプログラムを、文楽劇場とは違った角度から真剣に考えるべき。
技芸員と観客、その両方の世代交代が進んでも、東京を豊満な【 文楽馬鹿の愛人 】 で 居続けさせるためにも、ね。
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◇ つれづれ覚え書き ◇
今年の若手会は、もはや中堅に位置づけされるようになった睦太夫が卒業し、昨年7月に初舞台を踏んだ碩太夫が新加入した。
観終わってみて気になったのは、太夫陣の迷走ぶり。重鎮・竹本住太夫師匠が鬼籍に入り、文字通り重しが外れた影響なのか・・・。
ある太夫は、悲しみの表現を単に小声で濁し( 舞台下手の客には意味不明 )、また、ある太夫は、致命的なオンチと日々の稽古不足を露呈し、また、ある太夫は、口跡が良すぎて、義太夫節というより歌舞伎のセリフ回し的なサッパリ感が裏目に出ていた。
対する三味線方はクールに仕事をこなしていたが、全体的に精彩に乏い。
一番気を吐き、弾きこなしたのは寛太郎さんだった。2016年8月に自分の会を開いた時と同じ演目で、一緒に組んだ小住太夫と共に、住師匠からシゴかれた経験が大きいのだろう。今回は、追善の想いを込めて弾いていたのかもしれない。
人形部は、今のところ 文楽の光 だ。まだまだ左遣いに入ってくれる先輩方の上手さやオーラの方が目立ってしまっているが、来年に期待できる。
目をひかれたのは、光秀を遣った玉勢さんの表情の付け方。感情を表さない気丈な役柄だが、謀反を嘆く母親に対し、見えない角度でほんの少しだけ眉を落としたり、感情の揺れをわずかな顔の角度で感じさせたり、腹を割るまではしないが人間味が微妙に滲み出ている感じがいい。世話物の若男より、時代物キャラの方がニンなのか。今後、主役を大きく見せる工夫と、自身の体幹強化をゼヒ。
紋豊さん・紋秀さん・紋吉さんは、地味目ではあるものの相変わらず遣い方が丁寧で、先輩・師匠方の振りをよく勉強されていると思う。
簑紫郎さんと玉翔さんは華があるだけに、贔屓の引き倒し連の恰好の的だった。おゆうぎ会、無事卒業できますように。
何はともあれ、若手技芸員のみなさん、本当にお疲れさまでした。
これから益々のご活躍と、来年の若手会を楽しみにしています!
※今年の黒子協力は、吉田一輔さん、吉田勘市さん、吉田清五郎さん、吉田玉佳さん、吉田簑一郎さん(順不同。もしかして玉助さんも?)。
格上の所作と気遣い、ハンパなかったっス! お疲れ様でした。
◇◆映画「ムーラン・ルージュ」より「Lady Marmalade」◆◇
Christina Aguilera, Lil' Kim, Mya, Pink - Lady Marmalade